名古屋コーチンは日本で唯一の「純ジャパニーズ」地鶏!「日本の味」を守り続ける県と養鶏家の取り組み

名古屋コーチンは日本で唯一の純粋種
愛知県・名古屋の名物として名高い「名古屋コーチン」。耳にしたことのある方、卵やお肉を食べたことのある方は多いと思いますが、名古屋コーチンがどんな背景を持つ鶏なのかを詳しくご存じの方は多くないかもしれません。
実は名古屋コーチンは、 食用地鶏では日本で唯一の「純粋種」です。
純粋種とは何かというと、ほかの品種と交配させていない(名古屋コーチン同士の交配しかさせていない)鶏ということです。
これがどういうことを意味するかというと、昔ながらの「日本の味」を維持し続けている鶏、ということです。
実は日本に流通する地鶏は、名古屋コーチン以外はすべてほかの種(主に外来の大型品種)との交配によって生み出されています。仮にほかの種と交配させていた場合でも、在来種由来の血統が50%以上含まれていれば「地鶏」と認定されます。しかし名古屋コーチンは100%の純血を保っており、これが「地鶏の中の地鶏」「地鶏の王様」と言われる所以です。
今回は、名古屋コーチンがなぜ日本で唯一の純粋種となったのか、また名古屋コーチンの血統を守り続ける愛知県や養鶏家の取り組みをご紹介して参ります。
純粋種とは
純粋種とは、「同一の品種のみで交配されてきた種(この場合は鶏)」です。
品種というのは、「形質が固定化している個体の集団」を指します。簡単に言うと、姿形が同じ種類の動物、ということです。鶏で言うと「白色レグホン」や「ロードアイランドレッド」などの集団が品種に当たります。もちろん「名古屋コーチン」も品種のひとつです。名古屋コーチンは名古屋コーチン同士の交配によってしか生産されません。
純粋種のメリット・デメリット
純粋種はその品種固有の特性が受け継がれるというメリットがある一方で、遺伝子上血が濃くなってしまうため繊細になりがちで、繁殖が難しいというデメリットがあります。同一品種内はわかりやすく言うと遠い親戚のようなものなので、近親交配によって生物としての活力が低下してしまうのです。
名古屋コーチンの美味しい卵や肉をいつまでも守り続けていくためには、純粋種特有の飼育・繁殖の難しさがあります。
純粋種であるがゆえに名古屋コーチンはナイーブ!名古屋コーチンを守るための特別な繁殖・飼育方法
名古屋コーチンは血統100%が担保されているため、近親交配になりやすい側面があります。近親交配を繰り返すと、生存に不利な劣性遺伝子が発現しやすいと言われ、伝染病など病気への耐性が低くなります。
名古屋コーチンはこのような近親交配による活力の低下を防ぐために、一定以上の個体数の維持と系統の管理が徹底されています。

①音や光などの刺激を与えない飼育
名古屋コーチンは感受性が非常に高く、ストレスや刺激に大変弱い性格です。一説には「びっくりしたら死ぬ」とまで言われています。これはすこし話が飛躍しすぎていますが、繊細な性格であることは確かです。またびっくりすることでパニックを起こし、鶏舎の隅に向かって多くの鶏が一目散に走り、密集しすぎて圧死するという事故もまれに起こります。
これは近親交配に近い純粋種特有の性格であると考えられており、名古屋コーチンである以上は改良しがたい部分です。
そのため、鶏舎では光や音などの刺激を与えないよう十分に配慮し、温度・湿度管理が徹底されています。飼育員もなるべく音をたてないように立ち座りをゆっくりと行ったり、視界に入らないように壁際を歩くなどの配慮を行っています。

②個体数の維持
名古屋コーチンは近親交配による活力の低下を防ぐために、たくさんの個体数を維持しています。
生物は、同じ種であっても個体数が増えると近親交配を避けるメカニズムが発動すると言われています。そのため名古屋コーチンにおいても、可能な限り多くの個体(鶏)を飼育することで、別の系統が発現しやすい環境を維持しています。
「たくさんの鶏を維持する」というと単純な話にも聞こえますが、これには莫大な費用・労力がかかります。そのためにはそうした費用に見合うだけの鶏の「需要」を維持し続けなくてはならないという経済面・流通面での難しさもあります。ありがたいことに現在、名古屋コーチンは名古屋名物として大変多くの方々に食していただける食材ではありますが、引き続き多くの方々に知っていただき、食べていただくための取り組みも欠かせません。。
現在、名古屋コーチンの系統は8系統あります。それぞれ、NGY1~NGY8と名づけられ、血縁の離れた系統間で交配することで異品種交配に近い交配効果を得ています。
③新系統の造成
単純に名古屋コーチンをたくさん飼育すると言うだけではなく、遺伝子的にわざと離れた系統の名古屋コーチンを造成する取り組みも行われています。
名古屋コーチンの多くは愛知県内で飼育されていますが、新系統造成の際には他県などに残る遠縁の名古屋コーチンが交配のために導入されます。過去には富山県や滋賀県、岩手県、兵庫県で飼育されている名古屋コーチンが新系統造成のために導入されました。
1つの系統を完成させるためには、約7~10年が必要です。
このような長い年月をかけて生まれた名古屋コーチンの系統ですが、上述の通り現在ではNGY1~NGY8の8系統が存在しています。
NGY1~NGY8は大きく肉用系統と卵用系統に分かれます。NGY2、NGY3、NGY7、NGY8、が肉用系統、NGY1、NGY4、NGY5、NGY6、が卵用系統です。
同じ肉用系統の中でも、体重が増えるもの、産卵数が多いもの、両方のバランスに優れているもの…などといったように、特徴がつけられています。
これらの系統のうち、目的に合った複数の系統を交配して一般の農家が育てる素ヒナを生産します。

④病気に備えた衛生管理とリスク回避の分散飼育
昨今、ニュースでもよく目にする鳥インフルエンザなどの感染症。ほかの鶏と同じく、名古屋コーチンにとっても感染症・鶏病は死活問題です。名古屋コーチンの原種鶏(農家が飼育する鶏のヒナを生産する鶏)を病気から守るために、鶏舎では衛生管理やワクチンが徹底されています。また、飼育地を分散させる取り組みも行われています。分散飼育の依頼先は愛知県内の農業高校6校や民間孵化場であるスリーエム様です。この方法だと、仮に殺処分対象となったとしても比較的スムーズに種の復活が可能と言われています。しかしながら分散飼育先も殺処分対象となる可能性が捨てきれず、完璧に保存できる方法とは言えません。
畜産総合センター種鶏場ホームページ – 愛知県
名古屋市農業センターdelaふぁーむ 公式ホームページ
岡崎おうはんプロジェクト | 安城農林高等学校
佐屋高校 名古屋種プロジェクト(@Saya_cortin)さん / X
【公式】愛知県立鶴城丘高等学校 アグリサイエンス系列(@kj_agri) • Instagram写真と動画
今年度も可愛いヒナがきました – 愛知県立渥美農業高等学校
⑤精子や細胞を凍結保存
リスク回避の分散飼育のほかに、精液や生殖細胞のもと(始原生殖細胞)を凍結保存する取り組みも行われています。(卵は直接凍結ができません。)精液は、自然科学研究機構 基礎生物学研究所で保管されており、始原生殖細胞は名古屋大学鳥類バイオサイエンス研究センターに保管されています。この方法であれば仮に殺処分対象となったとしても系統を確実に復活させることができますが、コストも労力も要する方法なうえに、復活させるまでに2~3年かかると言われています。
名古屋大学・農学部・資源生物科学科
名古屋大学大学院生命農学研究科付属 鳥類バイオサイエンス研究センター (ABRC)
まとめ | 純粋種名古屋コーチンにはたくさんの愛と苦労が詰まっている
いかがでしたでしょうか。名古屋コーチンは純粋種であるがゆえに非常に繊細で、守り続けていくためにはたくさんの養鶏家さんたちや、県としての取り組みが欠かせません。
しかし名古屋コーチンを守り続けることは、古来から続く「日本の味」を次世代へと受け継いでいく大変意義のあることです。
名古屋コーチンは明治時代に生まれた国産実用鶏1号です。昔の日本人も同じようにコーチンのかしわや卵の味を味わっていました。同じ味を今、多くの方にダイレクトに感じていただくことで、言葉では語りつくせない郷愁や日本人としてのアイデンティティを伝えることができる、と私たちは考えています。
もし少しでも名古屋コーチンに興味が湧いた、という方は、名古屋コーチン振興協議会のトップページから店舗を検索してみてください。皆さんが名古屋コーチンを味わい、美味しいと感じていただけることが私たち名古屋コーチン振興協議会の大きな喜びです。
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